臨床の幅をひろげるKampo First Step

臨床の幅をひろげるKampo First Step 慢性疲労に使ってみよう
(日医ニュース No.1009, 12, 2003より転載)

慢性疲労の疫学

 最近、慢性的に続く疲労が注目されている。1999年、厚生省疲労研究班(班長:木谷照夫)が一般地域住民4,000名を対象に実態調査した結果、約6割が慢性疲労を感じ、その半数近くで作業能力が低下していると感じていることが判明した。そこで翌年、同一地域の医療機関受診者2,180人を対象に再調査したところ、半年以上続く慢性疲労が45%に認められ、その半数以上が労働・作業に支障をきたしていた(図1)。医師が病名を特定できていたのは約4割に過ぎず、多くは原因不明か、単なる過労として治療を受けており、プラマリケアでの慢性疲労への対処法が重要になってきた。
臨床の幅をひろげるKampo First Step 慢性疲労に使ってみよう 図1

慢性疲労症候群とは

 慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome:CFS)とは、これまで健康な人に原因不明の強い全身倦怠感、微熱、頭痛、筋肉痛、精神神経症状などが起こり、この状態が長期間続く結果、健全な社会生活が送れなくなる病気である(米国防疫センター、1988年に初めて診断基準作成)。
 最近の研究により、CFSは感染症や化学的、生物学的、社会心理的ストレスが引き起こす神経・内分泌・免疫系の変調に基づく病態であり、異常に産生されたサイトカイン(TGF-β、IFNなど)や自己抗体(神経伝達物質受容体抗体や抗核抗体)などによる脳・神経系の機能障害というメカニズムが明らかにされてきた(図2)。原因不明の慢性疲労の場合、CFS診断基準を満たさない例でも同様のメカニズムが関与している可能性がある。
臨床の幅をひろげるKampo First Step 慢性疲労に使ってみよう 図2

その治療法

 現在、一剤で完治できるような薬剤はない。これまでに抗ウイルス薬、免疫調節薬、ビタミン剤などさまざまな治療が模索されてきた。われわれは、原因不明の慢性疲労の治療としては、漢方薬の補中益気湯(ホチュウエッキトウ)(TJ-41)とビタミン剤の併用を基本としている。なお、発病時に神経症などの診断基準を満たす場合、内科的治療成績は極めて不良であり、精神科医の意見を聞くことも重要である。

補中益気湯をすすめる理由

 漢方では、微熱や全身倦怠感、病後・術後の免疫低下などCFS類似の病態に補中益気湯、十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ) (TJ-48)、人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ) (TJ-108)などの補剤(体力を補う漢方薬)が用いられ、有用性が高い。
 最近の知見では、補中益気湯は消化吸収機能賦活作用や生体防御機能回復作用があるとされ、NK活性の増強作用や手術侵襲に伴うコルチゾール、炎症性サイトカインの抑制作用なども報告されている。
 われわれは、CFS患者29例に補中益気湯7.5g/日、8〜12週間投与し、投与前後のPerformance Status(PS)、自覚症状、NK活性を検討した。その結果、著明改善10例(34.5%;軽度改善2例を含めると41.4%)をみとめた。これは二重盲検法によるプラセボ効果(約20%前後)を上回っていた。
 また、疲労・倦怠感、微熱、筋肉痛、集中力低下、思考力低下などの自覚症状も明らかに改善された(図3)。日常生活の質の低下をきたす大きな要因の一つに、集中力・思考力低下があり、補中益気湯はQOL改善にも有益である。さらに、免疫能の指標であるNK活性では、CFS症例は正常対照群と比較すると有意に低下していた(図4-A)。補中益気湯投与後、NK活性低下(20%未満)10例では、1例を除きすべてNK活性が増加した(図4-B)。
臨床の幅をひろげるKampo First Step 慢性疲労に使ってみよう 図3
臨床の幅をひろげるKampo First Step 慢性疲労に使ってみよう 図4

使用にあたってのポイント

 補中益気湯は単独でも効果が期待できるが、われわれは基本的に、アスコルビン酸3〜4g/日、メコバラミン1,500〜3,000μg/日、補中益気湯7.5g/日の3剤併用投与をしており、以前よりQOLの改善率が向上している感がある。なお補中益気湯投与後、羞明が認められた13例では9例(69.2%)で症状が消失し、運転時や野外活動時のQOL改善にも寄与する。
自験例:補中益気湯が奏効した1例
症 例 37歳、男性。
主 訴 全身倦怠感、微熱。
現病歴 平成7年8月より疲労感自覚。9月突然激しい疲労感で緊急入院。一般的臨床検査では異常所見なし。微熱、脱力感、過眠、思考力低下続くため、11月、精査目的で当科受診。
現 症 両側頸部に小豆大リンパ節を数個触知。
治療経過 NK活性はE/T比10:1で5.9%(正常32.3±11.0)と著減。血清アシルカルニチンも8.0μΜ(正常13.4±4.6)と減少。原因不明の慢性疲労として安静(休職中)とアスコルビン酸(4g/日分2)投与し経過観察。動くだけで疲労感増悪するため、スルピリド(3T/日)、塩酸マプロチリン(2T/日)追加。1月下旬も激しい疲労感が持続した。そこでTJ-41補中益気湯(7.5g/日分3)追加処方。2月末CFSと診断。3月、疲労感しだいに軽減。また微熱(37℃以上)も少なくなり、4月の検査では、E/T比10:1で14.2%、血清アシルカルニチン10.3μMと上昇。5月、疲労感・微熱消失し復職。8月以降投薬中止も疲労感増悪なし。

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