臨床の幅をひろげるKampo First Step

臨床の幅をひろげるKampo First Step こむらがえりに使ってみよう
(MEDICAMENT NEWS No.1800, 15, 2004 より転載)

国際頭痛分類

 こむらがえり(限局性の有痛性筋痙攣:全身に起こるが特に下肢に多い)は、健常人でもまれに過激な運動時、発汗・下痢などの脱水時に起こる。これは急性の細胞外液低下状態から起こるとされる。しかし、頻回に起こるようであれば糖尿病、尿毒症、循環障害、慢性肝炎(肝硬変)などの基礎疾患が疑われ、特に慢性肝炎ではその頻度が高い(1)。また、血液透析例(約20万人)では、透析後6割以上にみられる。夜間に起こる場合が多く、特に高齢者では不眠・不安の原因となりQOLを低下させ、基礎疾患を増悪させる引き金ともなる。現在、治療法として、西洋医学的には筋弛緩剤、NSAIDs、ビタミン剤、温熱療法、牽引療法などが考えられるが、どれも決め手に欠け、日常診療では難渋する例が多い。
臨床の幅をひろげるKampo First Step こむらがえりに使ってみよう 表

芍薬甘草湯のメカニズム

 興味深いことに、漢方薬の芍薬甘草湯(TJ-68)はこむらがえりに対して即効性があり、臨床的に多くの有用例が報告されている。本処方は芍薬と甘草の2つの生薬から構成されている。芍薬に含まれるペオニフロリンはCaイオンの細胞内流入を抑制し、甘草に含まれるグリチルリチン酸は最終的にKイオンの流出を促進する。2つのブレンド効果により、神経筋シナプスのアセチルコリン(ACh)受容体に作用し、筋弛緩作用を発現することが解明されている2)図1)。
臨床の幅をひろげるKampo First Step こむらがえりに使ってみよう 図1

基礎疾患別にみたこむらがえりと芍薬甘草湯のエビデンス

1. 糖尿病
 糖尿病の場合、運動療法時にこむらがえりを起こしやすい。また合併症が重篤なほど頻度が高く、健常者の6倍以上とされる。吉田らは、芍薬甘草湯投与群で90%の改善がみられ、筋緊張改善剤投与群より優れていることを報告3)している(図2)。
臨床の幅をひろげるKampo First Step こむらがえりに使ってみよう 図2
2. 脳血管障害
 脳血管障害例では約20%にこむらがえりがみられるという。阪本はこれらの患者5例に芍薬甘草湯を投与し、4週間投与後全例に著明改善を認めたと報告4)している。
3. 整形外科領域
 村上は、整形外科領域の基礎疾患を抱える患者37例のこむらがえり(発症部位:下腿、頻度:1日1回以上、時間:夜間睡眠中数分持続)に芍薬甘草湯を投与し、36例(97.3%)に改善効果を認めた5)。また効果発現も、投与後1〜7日以内で27例(73%)に改善効果が現れ、即効性がみられた。
4. 血液透析
 兵藤らは、透析患者のこむらがえりに対して、発症後から芍薬甘草湯を頓服投与(2.5g,5g/回)し、その効果をみた6)。その結果、61例中54例(88.5%)で有効、特に下肢では疼痛消失時間が5分前後と即効性があり、他部位でも8〜9分であった(図3)。
臨床の幅をひろげるKampo First Step こむらがえりに使ってみよう 図3
5. 肝硬変症
 熊田らは、肝硬変症患者のこむらがえりを対象に、多施設による芍薬甘草湯(7.5g/日分3食前)の二重盲検群間比較試験を実施した(観察期間、投与期間各2週間)。その結果、最終全般改善度では芍薬甘草湯群に明確な有意差(p<0.001)が認められた7)図4)。以上のように、基礎疾患は異なってもこむらがえりに対して高い有効率を示す芍薬甘草湯は、臨床上、頓服では副作用もほとんどみられず、即効性があり有用性が高い。
臨床の幅をひろげるKampo First Step こむらがえりに使ってみよう 図4

投与上の留意点

 芍薬甘草湯は、含有生薬の甘草中のグリチルリチン酸による副作用として「低カリウム血症」「偽アルドステロン症」「ミオパシー」「うっ血性心不全、心室細動、心室頻拍(Torsades de Pointes)」などがみられることがある。したがって、高齢者には慎重に投与する。また、使用にあたっては必要最小限の投与期間に留めるとともに、血清カリウム値のチェックや利尿薬、グリチルリチン製剤の併用には注意する。動悸、息切れ、倦怠感、脱力感などが現れた場合は、受診するよう指導することも大切である。本処方は、最近では上部および下部消化管の内視鏡検査時の前処置8,9)としても注目されており、“証(体質・症状)”をあまり考慮せず幅広く臨床応用できる。こむらがえりに対して、西洋医薬でこれといった治療法がない現在、特に高齢者のQOLを高めるために積極的に用いてみる価値があると考えられる。
●文献
1)熊田卓, 他:日医雑誌,117(7):RK601,1997
2)木村正康:体謝, 29(臨増):9-35, 1992
3)吉田麻美, 他:神経治療, 12:592-534, 1995
4)阪本次夫:Nikkei Medical, 2月号:50-51, 2001
5)村上元庸, 他:痛みと漢方, 5:11-16, 1995
6)兵頭透, 他:Nikkei Medical, 29(3):34-35, 2000
7)熊田卓, 他:臨床医薬, 15:499-523, 1999
8)山内浩, 他:現代医療学, 7:350-355, 1992
9)相正人, 他:Progress of Digestive Endoscopy, 62:45-49, 2003

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