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Medical Tribune [ 2006年8月26日号特別企画]
第48回 日本老年医学会学術集会

 第48回 日本老年医学会学術集会が金沢で開催された。学会第1日目のランチョンセミナー6では、認知症に効果のみられる抑肝散の話題が取り上げられた。藤原氏は、認知症の問題行動(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD:興奮、妄想、徘徊、不眠、攻撃行動など)に対する抑肝散の向精神作用と作用機序について研究中の基礎データを示した。荒井氏はアルツハイマー病やレビー小体病などに対する抑肝散の臨床効果を示し、基礎・臨床の両面が響き合う最新の話題が紹介された。

司会:井口 昭久 氏 名古屋大学医学部附属病院 病院長
演者:藤原 道弘 氏 福岡大学薬学部 臨床疾患薬理学教室 教授
   荒井 啓行 氏 東北大学大学院医学系研究科 先進漢方治療医学講座 教授


抑肝散の向精神作用について―動物実験からのアプローチ―
藤原 道弘 氏 福岡大学薬学部 臨床疾患薬理学教室 教授

抑肝散のBPSDに対する抑制作用
 藤原氏は、認知症の問題行動(BPSD)に効果が認められる漢方薬の抑肝散は、釣藤鈎を含んでいることが重要であると指摘し、「私はBPSD動物モデルで、抑肝散の効果や作用機序を検討しています」と述べ、講演を始めた。

 メタンフェタミン投与による運動量の増加は、抑肝散(TJ-54)300mg/kgの経口投与によって有意に抑制された。一方、正常ラットの自発運動量に対しては抑肝散1,000mg/kgの大量投与によっても、それ自体何ら影響を及ぼすことはなかった。また、チオペンタール睡眠延長作用が抑肝散100mg/kg投与によって認められた。すなわち、抑肝散は異常な状態において効果を発揮することがわかった。さらに、1ヵ月以上の単独隔離飼育によって発現する攻撃性(スコア3〜4)を抑肝散100mg/kgおよび300mg/kg投与のいずれの場合でも有意に抑制し、正常レベル(スコア1〜2)まで抑制された(図1)。

セロトニンに作用しBPSDの発現を抑制
 大麻成分THCによる不動状態は無意欲症候群にも類似しており、カンナビノイド受容体と5HT1/5HT2受容体が関与している。この不動状態を抑肝散100mg/kgが改善した(図2)。また、5HT2AアゴニストのDOIによる首振り運動は幻覚剤に共通して発現し、これは抑肝散100mg/kgの連続投与(2週間)によって抑制された(図3)。

  このことから、抑肝散のセロトニン神経系への関与が推測された。
 藤原氏は「GABAやセロトニンの低下によって引き起こされるBPSDに対して、抑肝散はセロトニンの合成促進あるいは遊離促進に働き、BPSDの発現を抑制していると考えられます(図4)」と講演を締めくくった。


認知症の周辺症状と抑肝散
荒井 啓行 氏東北大学大学院医学系研究科 先進漢方治療医学講座 教授

抑肝散のBPSDに対する臨床効果
 荒井氏は冒頭、漢方医学における「肝の陽気」の病的亢進は、不随意運動・徘徊などに現れるという成書の記載から、「抑肝散のBPSDに対する効果が推測されました」と抑肝散に注目した最初のきっかけを語り、講演を始めた。

 オブザーバーブラインドによる52症例による比較臨床試験では、抑肝散(TJ-54)を投与1週間後より精神症状スコア(Neuropsychiatric Inventory Score;NPI)が平均で18.4下がり(図5)、身体機能、つまりADLの尺度となるBarthel Indexは平均で6.5上昇した(図6)。荒井氏は、抑肝散投与後は妄想、幻覚、徘徊が消失し、介護上の大問題を解決する治療薬として大きな期待ができると述べた。抑肝散は精神症状を抑えながら、しかも身体機能を上向きにするという特長があり、抗精神病薬とは異なる有用な効果が認められた。

抑肝散を難病“レビー小体病(DLB)”の治療に応用
 抑肝散は西洋薬では満足な治療ができないレビー小体病(DLB)にも効果が認められた。幻視体験が特徴であるレビー小体病は抗精神病薬を投与すると過敏な反応(急激な悪化)を示すため、これが使用できない。そこで抑肝散を投与すると幻視に対するスコアが改善し、完全に消失した著効症例も経験した(図7)。

アルツハイマー病の根本的治療薬
 現在のアルツハイマー病治療薬は神経賦活作用が主であり、アミロイド蛋白の除去を目的としたものではないため、アルツハイマー病の根本的治療薬にはなり得ない。そこで荒井氏らは、漢方薬によるアルツハイマー病の治療法の確立を目的とし、アミロイド蛋白の凝集抑制作用および凝集した蛋白の分解作用を有する生薬を探索した。その結果、釣藤鈎にはアミロイド蛋白凝集抑制作用が認められた。凝集したアミロイド蛋白に釣藤鈎の抽出成分(水、メタノール、エタノール抽出)を投与するとアミロイドが溶出していくことが確認された。

 荒井氏は「アルツハイマー病の漢方治療がグローバルスタンダードになることが期待できます」と講演を締めくくった。



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