漢方服薬指導Q&A


国保南多摩病院院長 村田高明 先生
(漢方調剤研究 5(1)16-17,1997 より転載)
*先生方のご所属等は掲載当時のまま表記させて頂いております。

 産婦人科領域では他の診療科に比べ、漢方薬の利用度は高い。その普及した要因に、漢方薬ならば妊娠中でも安全に投与できるという社会的認知があるからである。しかし、漢方薬も薬剤であり、催奇形性や胎児への毒性については慎重でなければならない。

 1.妊娠中に薬剤を投与する場合の一般的な注意は?

 東京産婦人科医会臨床メモNo.1「妊婦への薬剤処方の考え方と実際」('95,9月刊)に記載がある。 薬剤はできる限り単剤を必要量投与し、効果が得られたら中止する。 薬剤によって胎児に影響を及ぼす時期や内容は異なる。 男性側に投与された薬剤は、催奇形性については胎児に影響ない。 器官形成期(妊娠2ヵ月)には、胎児は催奇形性という点ではもっとも敏感になる。3〜4ヵ月の期間は影響は少なくなる。 妊娠5ヵ月以降は胎児毒性が問題。 ほとんどの薬剤は単純拡散によって、胎盤をよく通過する。 母体血中濃度が上昇しないものほど胎児には安全である。 漢方薬では妊婦に慎重に投与するように添付文書がある。これは催奇形性のものではなく、催奇形性を認めた報告もない。

 2.実地臨床では妊娠中の治療対象は? 

 かつて行った筆者の調査では、妊娠中に行う漢方薬投与は78.7%であった。疾患別では感冒84.6%、妊娠中毒症61.5%、切迫流産46.1%、切迫早産46.1%、妊娠時不定愁訴26.9%、妊娠悪阻23%、妊娠貧血11.5%などであった。しかし、これらの疾患や症状の治療には、漢方医学の妊娠病の理論を踏まえて漢方薬を投与しなければ、より効果もあげられない。対象疾患を表1に示す。




 3.妊娠に対して西洋医学と異なる漢方医学の基本概念がある?

 『金匱要略』には妊娠病篇があり、また『備急千金要方』には妊娠各月の安胎薬と流・早産予防薬の記載がある。このように、いにしえより妊娠時には特に注意を払い、安全性を強調している。 妊娠時に用いる漢方薬の条件: 安胎が必須であり、母体ならびに胎児に対して安全である。 漢方薬といえども適用を誤れば副作用や有害反応が起こる。 構成生薬の安胎、禁忌、慎用薬の基準に則る。漢方エキス剤の多くは慎用薬である。特に漢方薬の薬効見直しの中での問題点(瀉下剤)についても知る必要がある(表2)。 漢方医学からみた妊娠の病態生理は 母体は陰血が不足し、口渇、便秘、体熱感、眩暈などを生じやすい。 胎児発育により、母体の気の運行を妨げ気うつを生じる。 水分代謝に影響を与え、痰(水滞)を生じ、神経過敏、不眠、胸腹部膨満感、嘔吐などを発現。 脾胃虚(胃腸障害)や腎虚の症状である腰痛、浮腫、歯痛、耳鳴りなどを生ず。


 4。妊娠中の漢方治療に原則がある?

  妊娠病の病態生理を踏まえ、補陰血、 、補脾胃に留意。 母体は陰血をさらに少なくし、内熱を生じ、陽盛となるので、清熱養血が必要。 妊娠中には発汗、瀉下、小便の利を禁じている。過度の発汗は陽気を傷める(麻黄製剤の注意点:エフェドリンは末梢循環を損ない、胎盤への血流を損なう)。過度の瀉下は陰血を傷める(大黄製剤の注意点)。小便の利は津液(体液)を損なうので注意する(利尿剤禁止の問題点)。 投薬上の注意事項として、『黄帝内経素問』六元正紀大論篇には、「有故無殞、亦無殞也」(妊娠中でも、その薬の目標となる病が有れば危険はなく、また胎児にも害を及ぼさない)、「衰其大半而止」(大半が治った場合には、何時までも投薬を続けず中止せねばならない。長く劇性の薬を与えていると、遂には母子ともに死の危険があると戒めている)の記述がある。

 5)妊娠中の諸症状に対する漢方療法の今日的動向? 

  安胎を目的に を用いる。 切迫早産の塩酸リトドリン治療の頻脈や心悸亢進に や木防已湯を用いる。 妊娠中毒症では、病状の程度にもよるが、第一選択薬では塩酸ヒドララジンや メチルドパに比べ、 、五苓散や柴苓湯がより多く用いられている。その理由のひとつにサイアザイド系利尿剤は胎児胎盤系の血流障害を来すことが判明している。 不育症では、妊娠中に免疫学的検索を行いながら柴苓湯、 を用いる。



参考文献
1)
村田高明:妊婦に対する漢方薬投与と注意点.漢方Q&A,日本医事新報社,1991,P22〜25
2)
村田高明:処方的にみる妊婦の漢方治療上の諸注意.現代東洋医学,13(1):11〜17,1992
3)
村田高明:妊婦における併用、配合の留意点.漢方調剤研究,1(3):21〜23,1993
4)村田高明:妊婦マイナートラブルの漢方療法.臨床婦人科産科,48(1):48〜51,1994
5)村田高明:妊婦・授乳婦への漢方薬投与について.漢方診療,14(6):10〜13,1996